四者四様
XRF による分析ですが、対象とする試料によっては、強力な威力を発揮します。恐らくは、人の目で必死に見ても分からない物さえも、機械が提示する冷徹な数字で、確定できてしまうケースもあるはずです。ただ、それが可能だからと言って、私は人様の懐に手を突っ込んで、黑い物を抉り出す気は毛頭ありません。真偽の判定が必要なマテリアルをお持ちの方で、私が開示した情報に接した方でも、大雑把に言って、四種の反応が有るのです。①は積極的に、事実を知りたい、結果は受け入れるし、公の益の為なら、その事実を開示しても構わない人。②は事実の検証には協力する、但し、嫌な思いは忘れたいので、結果はオープンにしないで欲しい人。勿論、それはご希望通りにしています。だから、20点+のNGマテリアルを押さえても、ほぼ半数しか表ざたに出来ません。この制限が有っても、説得力の有る論文を書けると思います。数の多さには然したる意味は有りません。様は、事実を提示して、第3者を説得できるかですから。ここまでの人の場合は、該当のマテリアルは、黙ってそのまま持っているか、参考資料ということで私に永久に貸与してくれるかのどちらかです。ずっと一人で収集して来て、今の状況をご存じなければ動きようはないでしょうが、今後も別のメディアを含めて更なる情報を出しますから、遠からず世間的にも周知の事実になるはずです。それでも、③知らないふりをしているのか、あわよくば、売り逃げを狙っているか知りませんが、何の反応もない人が、人数的には最も多いのが残念です。更には、④完全にお一人で収集をやっていて、世間の情報にも一切接する機会をお持ちでない方も結構おられます。その収集マナーは物凄く寂しいでしょうに。
MSA・ヤフー・日フィラと、外形的にはオープンなマーケットで売られたものが多いので、何れも資料はかなり残っていますし、人の記憶にもインプットされています。このルート以外の物でも、今改めて見つめれば、筆跡とか、消印の滲みとかで、顔つきに特徴の有る物は、今後は表で売り物にすることは出来ないでしょう。知っていて売るのは論外ですが、100%善意であっても、最終の所有者が切手展に出せば審査員のチェックが入るし、遺品としてオークションへ出品する場合でも、今度は数多くの人の目を完全にスルーは出来ないでしょう。私のポリシーは、まず情報を公開して、その上で何をやるべきか考えましょうなので、自分が得た事実は、前提条件として、直接当事者のキャップが被さっていない限り、独り占めする気は有りません。分析機械も、無料で提供しますし、アポさえ取ってくれれば、立ち会って、その場での解析も可能です。こちらでは日程的な都合以外の条件は付けませんから、必要と思われる方はお申し越し下さい。前回の同一額面異種貼の不統一カバーの1年後のセールでした。日本フィラテリックセンターの第67回フロアセールのLot1958 2次昭和27銭単貼速達です。昭和20年には不釣り合いな綺麗で上等な封筒に、達筆の墨筆書き、冷静に見れば、この字体、どこかで見たような気もするのですが、それは思い過ごしの因縁です。最低値は6万円、20~30万でフロアで落ちました。2人で競ってましたから、まずまず相場ぐらいでしょう。結論に進みます。封筒の部分の消印と、切手上の消印からTiが出ました。速達の朱印からはHgが出ませんでした。昭和12年以降に酸化チタンが実用化された可能性は否定できませんが、今までの実績から見て、昭和20年の郵便印にはTiは入ってないと思います。結論としてこのカバーは、真正でないと判断せざるを得ないのです。墨筆の宛名文字と中身の手紙からは、Tiは出ていません。この部分の真偽は分かりません。このロットにはフロアの競りの時点でエクステンションのリクエストが掛かってました。このオークションの場合、鑑定は自動的に日本郵趣連合に回ります。2014年2月8日の「真正」のペーパーが付いています。関係者と問わず語りで話をしたのですが、差出人も受取人も、実在の人物であることは確認出来ているそうです。それは最重要のファクターでは無いのですが、逆にこの消印だけをフォーカスして、真偽の判断を求められても、可否を決するのは困難でしょう。特にダメを断定する根拠が無いのです。この位の印影なら簡単に作れる輩を相手にせねばいけないのです。もし、運よく、上甲子園局のデータが有ったとしても、比べても、寸分違わぬ同じ物という結論になるでしょう。単片上の未発表の消印なら、資料不足で「意見なし」も有りですが、カバーの場合、判断材料は十分なので、この逃げも打てません。突き詰めれば、消印一つの真偽のみで全体像を語らねばならない鑑定は、極め付けの達者な悪意を前提にはしていないのです。だから、現時点では私の機械の出番も有るでしょう。あくまでも、結論に導くための参考資料の一つとしてですが。
次にお見せできるのは、有馬・切手博物館の所蔵品です。事実の公表の許可を頂いているので、包み隠すことなく書いていきます。今までの特別展示で、毎回話題に上っていたカバーの検証です。手元にあるMSAのオークション誌と、金井宏之コレクション集を対比して、4通のカバーの検証のオファーをしました。3通は、MSAの出品物、1点は、将来、別のカバーを調べるための比較データとして必須になるアイテムです。MSAの3通は、金井氏がご健在で、日本郵趣連合鑑定委員長在任の時の落札品なので、コレクションに入っているのは、鑑定書付と同意味です。179回 1996年5月18日締め切り。①Lot1126 竜500文貼 福山検査済 落札値220万、②Lot1127 竜半銭2枚貼 山形・和徳消 落札値65万、183回 1997年5月12日締め切り。③Lot2012 竜200文・2銭貼 西京検査済 落札値130万。姿からして、②半銭の山形は問題ないと思ったのですが、出所と時期ゆえに、分析に掛けました。抹消印2種からと、筆書き部分からはTiは見つからず、朱印からHgが出ました。問題ないと思います。①500文の福山です。福山検査済の封筒部、切手部、東京郵便役所印、十一月二日印、「未発表」タイプの郵便御用備後福山印からは、全てTiが出ました。墨筆からは出てません。封筒自体は真正か、白封筒の後書きかは、このケースでは不明です。消印は、全て偽物と思えます。念のためということで、福山の豊田陽則氏にお願いして、福山検査済のカバーと切手を3点見せて頂きました。何れも、当然ながらTiは出ていません。③200文・2銭です。西京検査済を世界で一番見ている人と雑談で話したことが有りました。正面切って聞いても、ストレートのご意見は聞けません。まあ、問わず語りの雑談でしたが、あれは駄目だよのニュアンスでした。西京の特有の針穴や、那覇ボタでも面白い話も有るのですが、こんがらがるので止めておきましょう。②ですが、西京検査済の封筒部分、200文上の消印部分、麹町郵便仮役所の消印部分から、Tiが見つかりました。干支印の東京郵便役所、墨筆からは、Tiは見つかっていません。朱印の西京郵便役所、午後便、朱筆書きからは、Hgが確認できました。この結果をアナライズして纏めれば、真正の使用済カバー=明治5年8月使用=西京・東京間400文料金の筆書き部分と、西京の証示印、東京郵便役所の中継印を生かして、切手2種を後貼りして、偽物の西京検査済で抹消、着印の麹町も偽印ということになります。出来はいいですよ。この人物の作品の特徴ですが、黒印の印油の滲みが有る物が多く、それが一つの指標になっているのです。このケースは微妙です。出来栄えからして見抜くのは無理でしょう。今から思えば、出来の良くない、500文の福山に、海外のコレクターからの依頼で私もビッドしていました。200万なので多分2番札でしょう。勿論エクステンションは掛けていません。まさか、カバーで偽物を作れるとは思っても見ませんでした。この機械と出会うまではですが。