切手の顔料で代表的な物を説明いたします。手彫切手インクの顔料に関しての立派な論文が英語で書かれています。コレクターの荒木修喜先生他の研究の成果です。それを読みやすく和文化した物が、『手彫切手研究37号』に採録されていますので載せておきます。この論文をヒントにして、荒木先生と高野昇郎氏に私も協力して、和桜1銭・2銭の中間印刷の分類の為の顔料分析をやったのです。試料は100点位有るので、完璧に分析が出来る事が判りました。今回は詳しい説明を避けますが、一部の元素の有無と多寡で松田と政府が分類でき、中間は政府に含まれる事が実証・確認出来たのです。静岡のご仁の製品の分析に移ります。ここに載せております上記の論文で、竜文・竜銭・青一松田印刷に於いて、顔料はプルシアンブルーで有る事は確定しています。紙に起因するCa=カルシュームを除けば、最重要な元素はFe=鉄で有る事が明瞭です。そしてFeは、直ぐ後の和桜政府印刷の時でさえ、劇的に減少しているのです。ましてや恐らくは令和、早くとも平成末期の作業と思しき、静岡製の竜文・竜銭に於いては、一切姿を見せなくても当然なのですよ。勿論欠片も見出せませんでした。だから、偽物だと断定できるのです。法廷に出ても裁判長を理解させられる証拠だと思います。印刷時の原料なので紛れる要素は有りません。有るか無いかが問題なので、誤差とか測定時のエラーの可能性は排除出来るのです。
論文と共に、静岡製の竜切手①と同人の鑑定書の不思議な元素分析表②・その現物を弊社のXRFで分析した③・弊社所有の真正の竜切手④・それを弊社のXRFで分析した物⑤の順に載せておきます。Feの有無が、完璧な証明になると思います。図案に関しては、一瞥すれば特徴部は完全に真正品と一致しているように見えますが、細部では微妙な差異が見つかります。危険な出来栄えです。現物を手にすれば見慣れた人なら区別は可能ですが、画像だけでは見分けるのに苦労するやも知れません。
この手法は、他の種類の手彫切手でも使えます。例えば、赤色の場合のHg=水銀の有無とか、商業的な実用化が戦後であるTi=チタンの含有の有無等で偽物の摘発などを、説得力の有る理由を示して証明チャートが作れるのです。念の為に他額面でも作業を進めたいと思います。