懸案の【郵摸】案件、やっと動き出しました。総務省郵便課に書面を送ってほぼ1ヵ月が経過しても何らの音沙汰も無かったのです。コンプライアンスマターととして、総務省監察室にメールを送ったところ、今日返事がきました。予想通りの内容です。「当室は総務省職員についての法令違反他を担当している為、お申し出の案件は対象外なので、該当部署に回します」です。仕事上のミスや能力不足での間違いは対象にはなりません。でも、効果は絶大で、踵を接して郵便課から即刻、電話が有りました。来週中に書面での返事をくれて、それをたたき台にして私と議論したいとの事です。こちらは既に準備が出来ているし、論点の整理も完了です。現在進行形の案件は【東芝ゼロ円】なのですが、警視庁保安課の解釈は、【郵摸】の条文に於いて、東芝ゼロ円のオリジナルが合法に扱えるのは、当初の目的に則して正当に利用した東芝株式会社に限られるということです。詳細は繰り返しになりますので、今は流しておきます。もし警視庁の見解が正しいのなら、【みほん】を合法的に使えるのは、郵便局だけで有り、周知・公報・照鑑以外に売買や頒布すれば、それは【郵摸】で摘発されるという事になります。法の不遡及と、公訴時効を除いての原則論で議論をして、【みほん】の合法性を確認したいと思っています。もし、みほんの販売が違法ならば、カラーで切手の図版が載っている、書籍も全て、出版元が最初に売った時以外は違法になってしまいます。【郵摸】の後半部分は売り手の属性を限定している物では無いのです。電話でその旨を話したところ、趣旨は理解してくれています。当初に照会を受けた弁護士さんが警視庁に出した返事を元にしての議論になるのですが、兎も角返事を待ちましょう。
今回のオークションでも、みほんで面白い物が出ています。ギャグですが、法的には時効になっているので、これを売っても【郵摸】で摘発はされません。Lot308は木工船2銭の横ペアです。タイプ12+15なので、山本義之さんのデータには有りませんでした。2次昭和と3次昭和+同時代の記念切手は字体に多くのバラエティーが有るのです。100面シートでの加刷なので、ブロックが有ればPosも分かるかも知れません。2昭の3銭と7銭は塊が有るので研究は結構進んでいるようです。船の2銭はペアでも少ないし、このタイプは単独でも珍しいと思いますし、タイプ違いのペアは貴重です。
Lot1237は菊5円・10円のひらがなみほんです。発行周知用は見本で、朝鮮と台湾まで有るのです。平仮名は、後年の大字しか見つかっていないと思います。それ以上に、今回の物は他に例を見ないタイプです。菊は無論、田沢にも無いと思います。無加刷未使用の価値から判断して、偽物の可能性も無いでしょう。しっかりした活字なので、後年の照鑑用だとしても、連れが全く見つかっていないと思います。でも、1点有るという事は、複数あっても良いはずだと思っていますが、買った人が研究してくれるのを望みます。
Lot6154は吉野熊野の小型シートです。異形の字体です。他には無いし、それ以上に、4種の切手で全て字体が違うのです。たとうが無いのが残念です。ごく最近に海外のオークションの出ていたロットの1点です。このステータスは、正に見たまま以上の物では有りません。
ほんの1回のオークションでも、こんなに楽しい物が出て来るのです。【郵摸】をきっちりクリアして、みほんも安心して買って頂けるようにしたいと思っています。
本日、第118回フロアオークション誌【日本国際切手展記念セール、8月29日開催(メールビッド8月26日締切)】を発送いたしました。同時に大阪の事務所での下見も可能になっております。今回は目玉品が沢山集まりました。物が良い物だという前提が有っての事ですが、意識的に編集したのでテーマで見易く並んでいることが多いのです。どの分野でも注目品を含んでおり、大いに楽しんで頂けると思います。旧小判は超一流のコレクションのPart1を出しました。誰もがご存じの珍品は無論ですが、前所有者のお気に入りの物が目白押しです。骨格とすれば、1997年のサンフランシスコ国際切手展に出品されたコレクションが主体です。その後に入手された珠玉の別枠のエキストラの追加分も有るのですが、アルバムへの書き込みは桑港展の物を其のままの状態で預かりましたので、編集に際しても基本的にはその分類を尊重しています。
1点だけ勝負したいものが有りました。Lot2287 6銭無地の未使用です。リーフ上の展示箇所は、エスパルトよりも上で、無地としての位置づけです。初期色で無斑点の縦紙なので、無地と書いて何の問題も有りません。でも、かなり薄いのです。平滑で無斑点、色は蒼白と表現できると思います。同じ紙が50銭に有れば躊躇なく【薄紙】と書くのです。クールにデータを数字で並べて見たいと思います。厚さはマイクロメーターで計測したμ表示です。今回の場合に限ってですが、贅沢な検証が出来るのです。機械計測での比較の数字が命なので、条件が均一でないと駄目なのです。完全未使用で、オリジナルガムの部分を2か所+測りました。そのデータを並べます。
額面 発行日 厚み(µ=ミクロン) Lot番号
1銭黒 1876.5.17 55.50 2252
2銭狸 〃 54.50 2259
4銭 1876.6.23 55.00 2272
5銭 〃 59.50 2284
10銭 1877.6.29 56.75 2220
6銭 〃 64.60 2287
3銭 1879.6.30 62.33 2322
50銭 〃 62.50 2335
発行日を基準に取れば、前後半で4種ずつ2組に分かれます。厚さで分ければ、前半5種と後半3種で2組です。さあ、この6銭、どういう位置づけになるのでしょうか。60μ未満ならば良かったのですが微妙な数値です。【欲目の薄紙】結構気に入っている表現です。眼で見てわかる特徴もそうですが、こうやって並べると単独では見えない部分も見えて来るのです。薄紙は短期間のみで使われています。目打9Sは有りません。出現期は11年~12年ですが、短期集中でのスポットの使用とは限りません。3銭・50銭は主力に近い使われ方ですが、1銭黒~10銭は主流では有りません。さあ、6銭はどうでしょうか。見つかっていなかったから、頭ごなしに否定はできないと思います。同じような例が、45銭の白紙の13(複数存在)と50銭の薄紙の13目打にも有るのです。表紙に使っての最低値5万円、評価は???
発端は、今年1月の報道でした。ヤフオクでの切手の模造品が取引され、それが【郵摸】で摘発されたというニュースでした。予想外でしたが、嬉しいニュースでした。被摘発者の代表に富山の男性という情報が有りました。恐らくはヤフオクでの素っ頓狂な偽物を反復、継続して出品している、ID tsumekome・・・さんだと思います。摘発者は警視庁・保安課でTVや新聞でその一部を見ることが出来ました。まさか、【郵摸】での摘発とは正直期待していませんでした。【郵摸】は違反者を摘発をするのが目的の法律だと思っていなかったのです。マスコミに出た画像は、なる程と納得できる物でした。でも1点気になる物が有りました。「東芝ゼロ円」です。ヤフオクに出品されたときから気づいていたのですが、tsumekome氏の出品物はそれの現物でなく、ごく最近作った、光学機器を用いたリプリントだと思います。ビードロの摸刻、現行切手への悪戯と同じく、【郵摸】でアウトの物で間違いないと思います。その根拠は既に詳しく書いています。でも、ちょっと気になったのが、「東芝ゼロ円」のオリジナルを誤解しないかという事でした。この時点で、横浜の古物商が、馬鹿げたやり方で本物をヤフオクに出しまくっていましたから。【郵摸】の条文と現物の性質を慎重に読めば、これは【郵摸】に該当しないのは明らかです。作られたのが昭和41年で、【郵摸】施行が47年12月なので、法は遡及できません。また、【郵摸】に基づく物では無いのですが、作成時に郵政大臣の許可を得ています。どう見ても合法なのです。全郵普の90年スーベニア―と同じです。そして、【郵摸】で摘発できるのは、違法物を扱った場合に限ります。かなり対象が限定されているのです。
郵趣に関してはド素人の横浜の古物商、「東芝ゼロ円」は貰ったか、廃紙を拾ったのかしたのでしょう。千載一遇のチャンスだと舞い上がったのだと思います。実際に良い値段で売れました。下邑さんの印紙のカタログには20万の評価で出ています。かつてこれがマーケットに最初に出た時に動いた値段がそれでした。その後オークションに散らほら出て、10万位で落ちていました。縁あって私の手元にある程度の量が来た時は、5万位が相場だったと思います。ゼロ円も二本バーも、私が扱った時点で、絶対的に合法物だという確認を取って売っています。
5月の報道で吃驚です。マスコミにでかでかと「東芝ゼロ円」が出ていました。【郵摸】で摘発されたのが53歳、横浜の古物商、ヤフオクで1000万以上を荒稼ぎ、そしてお気の毒にこの人の出品物を買って、転売した人たちも芋ずる摘発です。「東芝ゼロ円」が【郵摸】に該当しないことは確信が有りました。超一級の裏付け資料が有ったからです。だから、警視庁・保安課に電話した上で資料を手紙で送りました。無視されるかなと思ったのですが、電話で返事を貰いました。保安課の広報担当の方でした。ご機嫌の口調で私の問いに答えてくれたのです。1月の件では、富山の男性が、5月の件では横浜の古物商がターゲット、「東芝ゼロ円」を【郵摸】違反で摘発したと明言していました。当然ながら私は聞いたのです。リプリントは【郵摸】に触れるけど、オリジナルは合法でしょう。法の施行と物の製造は日付が逆なので遡及は無理でしょう。オリジナルをリプリントと勘違いしていませんか。富山は立件できるけど、横浜は無理ですよ。明瞭な答えが返ってきたのです。リプリントもオリジナルも両方ともに【郵摸】で立件できる。オリジナルに関しても、【東芝】のみが、自動取り揃え押印機のテストに使う場合に於いてのみ合法であり、それ以外は全て違法だと言うのです。警視庁の保安課の刑事が夜も寝ずに捜査して、書類を地検に送っている。当然ながら起訴されて有罪になるに違いないという主張でした。そしてこの法的解釈は、警視庁でなく、郵政省郵便課に書面で送って、顧問弁護士の確認の上で書面で返事を貰ったので自信があるという事なのです。
【郵摸】の法文を読んでも、この法律に於いて合法な物を、特定の属性を持つもの以外がその目的に反して販売した場合に処罰するとは書いていないのです。警視庁の解釈は法理論として滅茶苦茶です。マリファナなら、医薬品として使うなら合法、それ以外は違法だと薬事法?に書いてあると思います。「東芝ゼロ円」を扱った横浜の古物商が法に問われるのなら、【郵摸】でなく、ネコババ=占有離脱物横領か、所得税法違反位だと思うのです。窃盗・横領・背任は実際問題無理でしょう。幸いにも電話で話が出来ているので、論点を絞れているのです。「東芝ゼロ円」の東芝以外の第三者の販売が【郵摸】に抵触するか否かを法的に判断したいのです。警視庁にこれ以上問い合わせるのは無意味です。【総務省郵便課】が書面で【郵摸】に触れるという返事をした故に摘発したのだからです。この件を聞くべき相手は、総務省・情報流通行政局・郵政行政部・郵便課です。だから。7月1日にレターパックで書面を送り、翌日に到着したことは確認済みです。でも、今日の時点で返事は来てません。【郵摸】は、公訴時効が3年、必要弁護人事件では有りません。地検の判断はまだまだ先だと思いますが、どう考えても検事は起訴は出来ないと思います。一般的な数字なのですが、書類送検されての起訴率は38%に過ぎないのです。起訴された場合の有罪率はほぼ100%ですが、検察事務官が法律をチェックして、財務省印刷局に問い合わせれば物の性質が分かります。上司は100%有罪の確証が無いと決裁を通しません。横浜の古物商には余り同情を感じないのですが、同時に摘発された、40歳代の女性の事が気になるのです。ほんの数点のゼロ円をヤフオクで落として、小遣い稼ぎ?に転売したら、警察から呼び出され、家族や勤め先に知られたらどうなったのかな。ヤフオクのへんてこな物でボロモウケの輩を懲らしめるというチクリの投書が発端かも知れません。そのこと自体は善なる行為でしょうが、無実の罪で法の場に引っ張り出された人の気持ちを思えば、放置はできないのです。ヤフオクでの【東芝ゼロ円】シャットアウトは、【郵摸】が根拠では有りません。マスクの転売禁止と同じでしょう。ヘンテコなラベルを売っての大儲けが怪しからんという判断なら、それは理解できなくも無いのです。でも、手彫のおもちゃを流通も同時に止める事の方が大事でしょうが。
総務省・郵便課には、まず電話して名乗った上で、警視庁・保安課から紹介された旨を知らせて書面を送っているのですが、3週間経過しても何らの反応も無いのです。かつての郵政省の時代なら我が事としての対応がされたかも知れませんが、郵便切手は民間私企業の証紙です。郵便課は監督官庁であっても、お役所のステータスとしても随分と下部に位置する立場でしょう。これ以上返事を待っても仕様が無いと思います。幸い、総務省にはコンプライアンスの部署が有るのです。そこに通報して返事を待ちましょう。芋ずるの一番下で、無実の罪で、とばっちりで摘発されて警察のお世話になった人、もしそのことが原因で人生が変わってしまったなら、アメリカなら大変でしょう。数億円の損害賠償の訴訟の対象になりかねない事案だと思うのです。総務省監察室の返事を貰え次第ここで公表いたします。
改めて、法律第50号 昭和47年6月1日公布・同年12月1日施行の郵便切手類模造等取締法を載せておきます。
第一条 郵政大臣又は【外国政府】の発行する郵便切手その他郵便に関する料金を表す証票に紛らわしい外観を有する物は、製造し、輸入し、販売し、若しくは頒布し、又は郵便切手その他郵便に関する料金の証票の用途に使用してはならない。
2 前項の規定は、同項に規定する物で【郵政大臣】の許可を受けた【もの】を製造し、輸入し、販売し、又は頒布する場合には、適用しない。
第二条 前条の第一項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
飯塚博正さんからアドバイスを頂きました。法令用語の解説です、「者」と「物」と「もの」には使い分けがされているのです。「者」は自然人や法人、「物」はそれ以外の有体物で、「もの」は抽象的なものに用いるとのことです、人物は「者」物体は「物」、自然現象や人の気持ちみたいな目に見えない存在物、宇宙のような漠然としたものが「もの」ということでしょうか。2項の【もの】ですが、助詞が【を】なので、【物】に置き換えて良いと思います。対象物が違法か否かで、それを製造・頒布した者が法に問われるということです。対象物の違法性が確定していてこそ、処罰の対象になるのです。
この法律で全てが決するのでは有りません。『総務省の郵便切手類の模造等』に実務上の詳しい説明が出ていますので、是非読んで頂きたいのです。
総務省|郵政事業|郵便切手類の模造等 (soumu.go.jp)
「取締りの対象となる郵便切手類とは」の項目に使用済みは対象外と明記され、未使用の【現行切手】に紛らわしい物が本法の対象と記されています。この定義は後で論じます。直ぐ後に、》総務大臣の許可を得たときは製造等ができる場合があります』に続いて【許可をされたとみなされ、許可申請を要せず、製造等ができる場合】が示されています。主として、サイズや材質で切手と間違える恐れが無いケースを示しています。その最後に、(9)外国で製造された模造切手類を輸入する場合で、そのものが当該国の郵便切手類等取締関係法令に違反しないもの。ただし、郵便切手類模造等取締関係法令の規定のない国から輸入する場合を除きます。と記されています。数回前に書きましたが、現行の【郵摸】法の起案の際の郵政省の便箋に書かれていた、万国郵便条約73条(模造変造等の処罰に関する条束)を批准している、UPU加入国がその対象だと思います。第一条の【外国政府】の発行した切手模造品が、日本の【郵政大臣】の許可を受けねばならないという事では有りません。当然ながら、世界中の切手をデータベース化して、違法・適法の判断を日本の当局がやるはずもないのです。【外国政府】と【郵政大臣】とを繋げる発想は普通の人ならば持たないと思います。外国切手のみほんやプルーフは当然ながら対象外です。許可申請は不要です。
【現行切手】の定義は簡単では有りません。特に郵趣家が持っている生半可な知識が邪魔になるのです。郵趣家は条文に書かれていない言葉まで、自分の知識に置き換えて常識では通用しない判断をすることが有るのです。ここでの議論はあくまで【郵摸】法です。現行切手=郵便法上の有効な物とはどこにも書かれていないのです。郵便切手に誤認される物を排除するのが目的です。郵便法に有る定義をそれ以外の法律に機械的に適用させるのは無理だと思います。旧【郵摸】=明治42年の逓信省令にも有るのです。第3条 ・・・【現行郵便切手】・・・、ここでも郵便法に限定しての有効性には触れられていないのです。郵趣家の思い込みで同時に思い上がりなのですが、郵便法での効力を一律に引用していることが多いのです。係争になり、最高裁に行って、確定判決だ出れば別ですが、全ての法律に於いて、郵便切手の有効性が郵便法上の規定にのみ合致するとは私は考えていないのです。現行切手の定義は、普通に流通している物で額面で購入できるものと置き換えて良いと思います。実務で言えば、海外からの輸入貨物に掛かる消費税ですが、効力を有する日本の郵便切手は有価証券なのでHSコード49:07で非課税です。でも、菊1円や月雁は郵便料金として使えますが、それを理由にして有価証券の主張は出来ません。49類=有価証券でなく、97:04の日本製の骨董品として免税の結論を得るのです。額面を生かす事よりも骨董的な価値が上なので、その判断を優先させるのです。このケースでは、法律の適用根拠が違っていても、結果は同じ事なので争うのは無意味です。旧【郵摸】は施行が明治42年なので、郵便料金としての使用禁止は、竜と桜、「5厘を除く」旧小判だけです。明治42年では一部ですが新小判はまだ現役だったと思います。この時点なら菊と新小判が現行切手、法律はそのまま続くのですが実情に追随して適用範囲は変化します。大正時代になれば、新小判と菊は現行からは外れるし、終戦時なら田沢・風景も非現行だと思います。郵便法で生きているから、それが現行切手だと主張して論を張るのは、一部の郵趣家だけなのです。今の【郵摸】でも、手彫と5厘以外の旧小判、昭和の追放切手、1回国勢、飛行試行以外は【現行切手】だから【郵摸】の対象だと考えているとは思いません。細かいことに拘れば、GHQ命令での追放切手には記念切手は含まれません。軍国主義や戦意高揚の物がNGならば、日韓併合も満州建国10年も国立台湾も当然その対象になるのですが、これらは【現行切手】という認識外なので対象から外しているのです。旧小判5厘が郵便法を根拠にして有価証券だと言い張る人の意見は認めたくありません。結論付けるなら、異論は有るでしょうが、1円未満の全ての切手と新小判~田沢の1円~10円が非現行かなと思っているのです。次は、警視庁保安課との遣り取りに入ります。
まず触れておきたいことが有ります。基本的な情報ですが、郵便切手の有価証券としての偽造は、有価証券偽造罪にはならずに郵便法により処罰されます。正確に表現するなら、太政官布告に始まり、郵便規則、郵便条例、旧郵便法、新郵便法に受け継がれます。こちらに関しては法的な空白期間は有りません。でも、収集目的での模造は意味がだいぶ違います。前回書きましたが、発端は明治42年の逓信省令です。この時以前は、法律が無く、当然処罰も出来ません。和田小太郎の偽物はそれ以前に作られており、作成時もその後も処罰の対象にはなりません。法の不遡及の概念からも、法律が出来た後なら違法な物も、許可を受ければ適法になるケースでは、法律の無い時には許可申請を出すすべがなく、当然ながらその後も届け出の義務は有りません。許可申請が不可能なので当然ながら無申請でも処罰はされません。和田の偽物が郵便法に触れるのなら作った時から違法ですが、使用済は勿論、未使用も当時としての現行の物と判断されずに郵便法でも違反にはならなかったと思います。【郵摸】は法律自体が不存在なので議論の必要は有りません。
明治42年の省令65号は逓信省が郵政省に変わった、昭和24年5月31日までの期間で法的効力を持っていました。この間に【郵摸】に触れる物は逓信大臣の許可が必要だったのです。実例も残っていて、小島勇之助氏の日本愛郵会の竜や村送りのシート写真集には許可の事実が表示されています。切手そのものに類する模造品での実例は私では思い浮かびません。許可を得ての合法品、無許可の違法品共にです。
昭和24年6月1日に、前回記した理由で、旧【郵摸】の法的効力が消えたのです。新【郵摸】の施行は、昭和47年12月1日です。この間は空白期間で有り、【郵摸】は存在しないのです。意図したかどうかは判りませんが、もし【郵摸】が有ったなら、違法になった物も数多く作られているのです。趣味の切手社=清水裕雄氏の昭和~新昭和のパケット用の模造切手、切手経済社の月雁見返りの無目打摸刻、郵便創始80年(昭和26年)及び90年(昭和36年)の郵政省や全郵普、各地の郵趣会等の竜切手他の摸刻シート、これらは昭和47年12月1日以降に作ったのなら、許可を得て無ければ違法です。でも【郵摸】空白期間の作成なので、許可申請を出すすべもなく、当然必要も無かったので、ごく自然にマーケットに流通したのです。法律が出来たからと言って、改めて許可を取る事は無理ですし、勿論必要では有りません。当時も今も違法でないので、製造者は罪に問われることは無く、販売、頒布も自由です。【東芝ゼロ円】は郵政省郵務局の許可が昭和41年11月20日なので、この期間にモロに合致しています。全郵普の90年スーベニアと同じ位置づけで捉えられるべきものなのです。どう考えても違法にはなりません。全郵普のスーベニア―を郵摸違反だとは誰も思わないのに、東芝ゼロ円に目くじらを立てる人がいることに驚きを禁じ得ません。もしそうなるなら、日本郵趣出版のカラー印刷本も、空白期間の出版で許可申請が出ていなければ全部郵摸違反になるという珍妙な理屈を主張しているのに等しいのです。有り得ない暴論です。
全くの偶然で、私の手元には東芝の作成依頼書と、それに対応した郵政省郵務局長の許可書が有るのですが、これは【郵摸】とは無関係な物なのです。この法律自体が存在しなので郵摸・許可は有り得ない事実です。ゼロ円と2本バー加刷は、郵便物の自動取り揃え押印機作成に当たっての機械の精度を上げる為のサンプルとして、東芝及びNECに郵政当局が便宜供与した物です。費用はゼロでの供与という事での大蔵省印刷局への依頼だったと思います。これを【郵摸】の法律で議論すること自体がおかしすぎる話です。
次回は今生きている【郵摸】の条文の言葉を解釈して、1月と5月の事件をアナライズして見ます。「もの」と「者」と「物」の違い、条文に有る「外国」と「郵政大臣」の読み方、「現行切手」の法が想定している定義等ですが、普通に読めば【郵摸】は法律として分かり易と思います。でも、なまじコレクターの思い込みの知識が入って来れば違う方向に向かいます。許可を受ければ合法になるのがこの法律の趣旨ですから、どうすべきかを丁寧に指針で示してくれています。違法物を摘発するのが主眼でなく、手続きを踏んで合法になるように導いてくれているのです。でも、不心得者も現れるのは残念な事実です。
やっと8月29日(日)開催のPA118・国際切手展スペッシャルセールの私の受け持ち分の原稿執筆がが終わりました。7月29日(木)に発送出来る予定です。今回は本当に良い物が集まりました。ビッドされる方は大変でしょうが、お手元に届いてから、セールまでの1ヵ月大いに楽しんで頂けると思います。フロアは来月末の日曜日ですが、メールビッドの締め切りが、運営の都合で26日木曜日になりますのでご注意ください。このセールの事前情報は後日少し書いてみたいと思っています。今は、進行中の懸案の【郵摸】を仕上げたいと思います。決定的な一級の資料を紐解きます。これが有れば、今の法律の解釈が完璧に出来るのです。紛れる余地は有りません。丁寧に説明しますので長くなりますが最後までお読み願いたいと思います。意味さえ分かれば【郵摸】は分かり易い法律で、解釈を間違える方がおかしいのです。事前の草案と成立した法律、今現在の許可に係わる総務省の説明を読めば、全ての疑問は解決します。やるべきことを明示しているので、物が法に抵触するのかしないのかに関しては議論の余地は有りません。法には流れが有るのです。でも、なぜこの資料が私の手元にあるかは今は明かせません。改めて読んでみてなる程と思えたのです。
日付は入っていないのですが、郵政省の便箋にタイプで打たれていますのでそのまま引用いたします。誤字等もそのまま載せます。
「郵便切手類模造取締について」
本邦に於ける郵便切手類の研究及び切手蒐集趣味の急速なる普及伸長に伴い、郵便切手類の原寸原色による模造が盛に行われ、流布されている現状に鑑み、これら模造、又は模造の流布が郵便事業の上に及ぼす廬のある障害を未然に防止するとともに、万国郵便条約第七十三条(模造変造の処罰に関する条束)及び第三回国際通貨偽造防止会議決議等、国際取締の事項る具現させる目的で、別案の、取締方針に基き、郵便切手類模造取締に関する法令を早急に制定するよう取運びのことといたしたい。追って、郵便切手類の模造については、曾て逓信省徴章、通信日附印及郵便切手類模造取締規則(明治四二年逓信省令第六十五号)により、厳重に取締を行っていたが、新憲法の施行の結果、命令をもって、処罰事項を規定できなくなったため、郵政省の設置を機に、昭和二十四年九月郵政省・電気通信省令第一号により、同年五月末日限り、廃止され、爾来、空白状態のまゝ今日にいたっているものであるが、桑港、日華、日印平和条約等の調印、発効とともに国際社会に復帰した本邦の現勢から考えても、均衡上、本件取締法規の速かなる制定が望ましい。
なお、郵便切手類と類似の性格を有する収入印紙等の模造取締については、印紙等模造取締規則(昭和十九年大蔵省令第六十四号)によって、いたが、新憲法の施行に伴い、印紙等模造取締法(昭和二十二年法律第百八十九号)に切換え、取り締まりを継続している。本件決裁の上は、取締法規文制定方主管課において然るべく、取計らい願いたい。
参考条例を上げておきます。逓信省徽章、通信日附印及郵便切手類模造取締規則(明治四十二年省令第六十五号)
第三條 未使用又は使用済ノ帝国政府及外国政府ノ発行二係る現行郵便切手其ノ他郵便料金ヲ表彰スヘキ証票二紛ハシキ外観ヲ有スルモノハ逓信大臣ノ許可ヲ受ケタル場合ノ外之ヲ印刷、製造ノ販売ノ(頒)布又ハ使用スルコトヲエス。
次回は、時系列を辿って、現行法を解説します。
郵摸に関して、かなりクリアになって来ています。警視庁保安課に問い合わせた結果、明瞭な回答が得られました。1月の件は富山の男性が、5月のそれは横浜の古物商がターゲットです。主たる該当物は【東芝ゼロ円】です。私の解釈を伝えたところ、警視庁としては2件共に地検に書類を送り、起訴されることを期待しているとの答えでした。結論は公訴時効の3年以内に為されます。日本の司法制度では起訴された刑事事件での有罪率は99%以上、無罪になればニュースだし、国家賠償請求の対象になる位です。だから検察は有罪になる案件しか起訴しません。でも、警察から検察に書類送検された案件の内、起訴される確率は38%に過ぎないのです。この事を覚えて置く必要が有るのです。
郵摸の解釈ですが、私は製造時期を根拠にして、基本的に東芝ゼロ円のオリジナルは合法品、リプリントは違法品という意見であり、法的根拠も持っています。当然ながらオリジナルとリプリントの意味の違いを警視庁に告げましたが、先方に郵趣品に関する理解力は有りません。摘発に当たっては監督官庁の総務省郵便課と書面でやり取りを為し、顧問弁護士の意見で、オリジナルも含めて違法との回答を得たとの返事でした。郵摸の法文は一条しかなく解釈に迷いません。紛らわしい外観を有する物を摘発の対象にし、適用外要件も明示しています。2 前項の規定は、同項に規定する物で『郵政大臣』の許可を受けた【ものを】製造し、輸入し、販売し、又は頒布する場合には、適用しない。です。なぜ【ものを】が漢字でなく平仮名かが分からないのですが、【ものを】は【物を】と読むべきだと考えます。つまり【者が】と読み替えて、限定された属性を根拠にして摘発の対象外になるのでなく、物自体が合法か否かが問われるのです。警視庁はこの点で明らかに間違っています。私の問いに対して、【者が】の解釈で、東芝ゼロ円は「物としては」郵政大臣の許可を受けたことは認めるが、それは東芝のみが当初の目的に使う限りにおいて合法であり、第三者がそれをやれば違法だというのですが、「者」に読み替えており、これば全く無理筋です。だからこの点にポイントを絞って、総務省郵便課に警視庁に対してどう答えたかを聞いています。リプリントの現物を見て判断をした物を、警視庁がオリジナルにも適用できると解釈したのかと思います。物凄い善意での解釈ですが、どう答えてくれるか楽しみにしています。ゼロ円は製造日からして、法の不遡及でも適用は無理なのですが、その点以外の物への解釈の意見を聞きたいのです。7月1日にレターパックを送りましたが、現時点で返事待ちです。
【郵摸】法案作成者の関係者のご遺族から、決定的な一級の資料を頂きました。法律化直前の郵政省の素案・意見の具申書です。まさにそのままが法文になっています。付随して今まで知らなかった事実か記されていますし、これを読めば【郵摸】の法的な位置付けが明瞭になる物です。郵政省の便箋なので、そのまま画像でお見せすると差しさわりあるかと思いますので、後日打ち換えて公表いたします。概略ですが、元の法律は明治42年逓信省令第65号です。万国郵便条約73条と絡みます。そして新憲法の施行の結果、命令をもって処罰事項の規定が消失し、郵政省設置の昭和24年5月末で旧法が廃止され、昭和47年12月1日の【郵摸】施行までの期間は法的な空白期間になったのです。この期間に於いては、旧法の適用除外の要因を満たすためでも、許可を申請する術がなく、結果としては違法物は存在しないのです。処罰できる法律が無いのですから。新【郵摸】が施行後も当然ながら遡っての許可申請の義務もなく、外形上は法律が存在すれば違法な物も含めて処罰の対象にはなりません。法は遡及しての行為の追及はできませんから。だから、【ものを】=【物を】が重要なのです。
明治時代の逓信省令65号=通信日附印及郵便切手類模造取締規則でも、今の【郵摸】でも、適用除外の要件は明記されています。郵政大臣(総務大臣)の許可がそれです。面白い出品物が有りましたので、それをお見せいたしましょう。和田小太郎の偽物のシートです。明治23年8月3日印刷なので、明治法の施行以前の郵趣品です。法が存在しないので違法にはなりません。当時でも今でもです。今の法律を基準にして、思い込みで偽物は何でも違法では有りません。そしてそれは、外国切手に於いても同様です。当然ながら外国切手に関する許可を日本の郵政大臣が出すわけは無いのですが、発行当時国が許可すれば【郵摸】の適用からは外れます。現行法に於いても、総務省の許可申請に関する解説の、総務大臣の許可が不要な物の内、(9)外国で製造された模造品を輸入する場合で、そのものが当該国の郵便切手類模造取締関係法令に違反しない物。・・・と書かれています。外国切手のみほんやプルーフは原則的に全てセーフです。日本に於いて、郵便法上の有効性=手彫と5厘を除く旧小判、追放切手以外のリプリントもアウトという事も間違いです。何処にもその記載は有りませんから。実務上は戦前発行の物は対象外と思います。これに関しては私はHS税番49類で想定している定義を使う事が多いのですが、これは別の視点での議論が要るので長くなるので今はスルーしておきます。