月別アーカイブ: 10月 2017

1点限りの芸術品

高崎光吉さんの記事は完璧です。私が知りたい要素の全て網羅されていたのです。瀬戸口正(寸一路)氏は、大正14年5月生まれで1995年8月に逝去されています。商業デザイナーで、日本画家ですが、郵趣界的には肉筆FDCの瀬戸口版の版元として知られています。その業績は、私がくどくど書くよりは、前述の高崎さんのそれをお読み頂きたいのです。ここでは竜文のシートに絞って纏めてみたいと思います。肉筆シートは、当時お世話になった、深谷市の大谷二郎氏にお礼として贈呈されたもので、4種各1点限りの物です。瀬戸口氏から大谷氏へのこの期間の私信も多数公開されており、昭和37年から38年にかけて、数度にわたって渡された事実が読み取れます。大谷氏がご存命かどうかは分かりませんし、48文と100文は残念ですが行方は知れません。記事には、シート以外に200文Pos31の腕落ちの模写が、11.3㎝x11.3㎝で描かれた物が有る記されています。その現物は不明ですが、私の手元には同じタイミングで入手できた、100文2版のPos18の腕落ちの全く同じものが有るのです。左下に白抜きの「瀬」の落款が押されています。これの存在は高崎さんもご存じないかも知れません。今回のヤフーの出品では、この落款を見つけたから、私が瀬戸口のシートと信じて飛び込んだとも言えるのです。原寸でない、「お化けサイズ」なので、図案もかなり違うし、実寸の肉筆ほどのインパクトは有りません。因みに、シートの方は紙の厚みは200ミクロンで、本物の竜文の3~4倍の厚みです。筆書きの為にこの位の厚さが必要だったのでしょう。貰った大谷さんは、埼玉県深谷市の住人です。私が買ったのが埼玉県の古美術商、遺品?が流れて出たと考えれば、見事に辻褄が合うのです。ご存命中なら手放される可能性は皆無です。

20171019102956_00001

大谷氏もそうですが、瀬戸口氏も手彫切手の収集家で、竜のカバーを収集されていたと聞きました。4種シートの模写は、手元に本物のシートを置いて為した物でなく、何らかの資料を使って描いたと思われます。細かい図案の相違が有るのはそのせいでしょう。写真を元にして写されたのかなと思います。因みに昭和37年なら、市田氏の英文のDRAGONが発刊されています。瀬戸口氏が、FDCを商業的に頒布されていたのは、昭和34年から46年4月20日までです。私的な物や、幻の3点制作の「笹の會版」などのお話は、他の方に譲って、視点を竜文の肉筆に絞りましょう。エポックメーキングな物が有るのです。花下遊楽・昭和37年の切手趣味週間です。連作で40通作られていて、48文の1版をPos1~Pos40に似せてカシェにしたものです。高崎さんのHPには30点近く載っています。知る人ぞ知る事実なので、欲しい人が沢山いると思います。同じ切手で、限定20部の名品も作られています。偶然ですが、弊社の今開催中の99回フロアセールのLot27、竜文4種をカシェにした肉筆カバーです。封の裏に鉛筆で各切手のポジションが書かれています。このカバーは全て1版のPos40です。風景社のFDC忍び草にも同じ物が載っていて、こちらは48文1-1、100文2-18腕落ち、200文1-31腕落ち、500文1-2中期印刷・襷リタッチです。

20171019102956_00002

昭和37年頃が、瀬戸口氏とすれば、最も筆が立っていた時だったのでしょう。竜の4種の肉筆シートも、ぴったりとこの時期に当てはまるのです。縁あって入手できたこのシート、いずれはマーケットに出したいと思います。私の手元にある内に、ご希望の方にカラーコピーを差し上げます。200文と500文の肉筆シート、その他の参考品も添えてです。期日は2017年11月末までで、送料も含めて無料でお送りいたします。E-メールでお申し込みください。

20171019102956_00003

その名は、「瀬戸口寸一路」

竜のシートですが、少し前に「ヤフオク」の日本切手・手彫カテゴリーに出品されていたものです。竜500文40面シート+竜『300文』40面シートの版画=ご丁寧に、当時の物でない刷物の額装品です、の説明でした。出品者は、埼玉県の古美術屋さん、版画や本や絵葉書がメインで、評価は6000以上も有りました。この説明で、切手に関しては、ズブの素人さんだと分かります。幸い画像が鮮明だし、一部は拡大も出来たのです。遠目で見ても、Pos31 の腕落ちは見て取れます。刷りの印象は最初期色で彫線明瞭です。99.9%の人は、写真かコピーか、印刷物だと思うでしょう。2点で最低値が25000円なので、買気は起きない出品です。

直感で、コピーや写真で無いと思ったのです。説明に版画と書いているし、立派な額に入れての装飾品なのです。真剣に図案を見たのです。Pos36は肩点落ちだし、Pos19の剥げ竜、Pos2下七宝点落ちもOKです。プレーティングの助けになる、ホクロ・ヒゲ・スリット・余分な彫線、みんな完璧に合っています。この時点では、図案的には、本物と完全に一致するイミテーションと思いました。作り方は不明ですが。では、どうやって作ったかを考えるのです。本物を手元にしていなければ、イミテーションも作れません。だから本物の在り処を考えました。我々が日頃良く目にするのは、市田さんの竜切手のシート写真でしょう。これは、金井宏之さんのコレクションに入っています。豪華本の解説にも、腕落ちの完全シートはこれ1点となっています。念の為に調べた、手嶋さんのコレクションのそれは、大ブロックをベースにしたリコンストラクションでした。公表された資料では、現存1点と言っても良いのかなと思います。

今回の物と、金井コレクションのそれを比べてみたのです。エラーや顕著な特徴は合っています。でも、料額面と竜図案のバランスが一致しないのです。だから、コピーや写真では有り得ません。可能性を消去して、残った結論は、新発見の真正品、それを使って額装したと思ったのです。200文の腕落ちを含む最初期印刷と500文の中期印刷のシート、一見して極美です。膠で貼って有ったとしても、プロならば剥がすことも出来るでしょう。評価とすれば500万円かな。一瞬夢を見たのです。でも、一点違和感が有ったのが、500文の色が悪すぎる、見たことのない色合いでした。勿論こちらは、最初期でなく、Pos2-3 の点・タスキ落ちはリタッチされています。Pos14とPos29の火焔落ちや、ホクロとヒゲは完璧です。念の為と思って、拡大コピーを1ミリ刻みで合わせていきました。普段のプレーティングでやる手法でやったのです。雷紋が一致しないのです。印刷時期によっては、インキの加減で、多少の誤差は出るのですが、2点の試料で比べれば、同一の位置とは言えないと判断せざるを得ないのです。真正品の新発見の可能性は消えました。ならば、これは何だろうかを考えるのです。真正品でないし、それを光学的に写した物でもない、おもちゃとすれば、ポイントになる細かい箇所が一致し過ぎている。私が持っている情報で、考えられる可能性は一つある。「瀬戸口寸一路」=本名正、長岡市在住の日本画家、肉筆の瀬戸口版FDCの版元の芸術作だろうと思ったのです。噂で聞いていた、肉筆の竜文シートだと確信を持ちました。本物よりは安いでしょうが、是非とも手に取って調べたいと思ったのです。

手元に来た2点のシートの裏に鉛筆書きが有りました。200文には壬寅初冬=昭和37年冬、500文には昭和38年新春、「瀬戸口正」の文字がうっすらと書かれています。検索で、「肉筆S版」で叩いて見てください。高崎光吉さんの立派な記事が読めるのです。それを読み解けば、今回のシートの素性が分かります。現存一点、お世話になった方への謝礼で書いた、竜文4種完シートの一部です。キーワードは「埼玉県」このアナライズは次の機会といたします。

竜200文腕落ちシート

以前から噂で聞いていたもので、是非見たいと願っていました。

縁有ってやっと手元に届きました。

20171014155754_00001

詳細な解説は後日書きましょう。