ようやく、8月のオークション誌が入稿出来ました。引き続き、JAPEXセールと12月のPA/MAの編集にかかります。懸案のXRFの分析も随分進歩しています。文献の精読は終えたので、後は自分のテーマに必要なごく一部の要素を纏めれば良いのです。これからは現物に当たってのデータ採りなので、少なくても1000単位、実際は1万点ぐらいは調べます。基礎となるポイントを幾つか押さえれば、その後の分析の説得力が増すのです。この件は、回を改めて説明いたします。
しばらく前に、興味深い一群のマテリアルの分析依頼を受けました。「但馬国の初期消印」20数点でした。何点かは、ダメを承知で資料集めのために買っている。何れは、地元の郵便印の本を出すので、真偽の確定をしておきたいというご要望でした。XRFでの分析は、特定の一人が作った、極めて精緻なカバーや単片に限って、偽物の判断はできるのです。追々説明しますが、世の中に商業物質として存在しえない時代の元素が、その人物がマーケットに出した郵趣マテリアルから検出されれば、それは当時の正規な使用でなく、後年の偽物又は変造品に違いないという判断になるのです。その元素はTi=チタンであり、何時から正規の郵便印に使われたかを、月単位まで突きとめようとしているのです。印刷インキとの絡みや地域性でもう少し調査が必要です。でも、1920年以前には世界のどこにも無かったことは、あらゆる文献で等しく触れられています。確定している事実です。だから、現状でも竜から菊の時代にチタンが出れば、そのマテリアルはアウトです。この判断データはもっと後年まで使えます。ただし、Tiが出なければ、すべて真正になるかは確定できません。U小判2銭の後期12の、那覇ボタは偽印ですが、Tiは出ないのです。それを作った時代のインキに、Tiが入ってなかったからなのです。元より、私は最終の結論としての真偽の判定に関わるつもりは有りません。分析結果をチャートで提供するので、それを元にして、判断してくださいがスタンスなのです。この条件での分析をしたのですが、今回の一連のご依頼品からは、1点もTiは出ませんでした。
①は2010年1月の日本フィラテリックセンターのフロアオークションの出品物です。洋桜2銭チ貼 但馬大屋市場発、但馬竹田宛、消印は抹消印だけで、□但馬大屋町土田屋吉兵衛、出も受けも、実在の名前なのは、現所有者も確認済みです。但し、マーケットに売りに出た場所と、ルックスからして、本物の丁稚便に、本物の切手を貼って、偽消を押したとの疑念を持ったのです。局の沿革を言えば、大屋市場も土田(はんだと読む)も、7年12月16日の開局です。別の単片②の表示も、□但州土吉大屋だし、大屋市場か土田のどちらかで押した消印と考えても矛盾はないのです。出品者が誰なのかも分かりません。カバーとしては、情報が不十分なので、鑑定に出しても、意見は貰えても真実の保証は得られません。所有者の「照れ」でしょうか、駄目の証明が欲しいのニュアンスだったのですが、分析結果は「良し」になりました。このカバーの場合、Tiが出ないので、偽物とは断定できないという表現でなく、ポジティブに考えて良いと思います。その上に、立派な傍証が有ったのです。「フィラ関西・2010年5月号」③、高野昇郎氏の「最近のオークション誌から」です。2000年11月のKen Bakerさんのオークションに、2銭ホの単片に同じ(と思われる)消印の物が出ているというレポートです。この単片は上半分ですが、もう一点の単片と、同じ思想での作りになっています。偽物師がこの全てのデータを押さえて、偽カバーを作ったとは思えません。Ti無しが確認できれば、説得力も大いに増すのです。2004年・2008年に同じルートで入手された、但馬の初期のカバー類④⑤も、黒印からはTiが出ず、朱印からはHgが出ているので、XRF分析としては、全く問題は有りませんでした。地元印の場合は、偽を作る場合も、辻褄合わせの材料を見つけるのが容易ではないのでしょう。買う人がしっかり知識を持ち、データも押さえているのを偽物師も知っているのでしょう。