『JPSは切手会』
今回のFDCの大家のコレクションですが、時代を区切っての蒐集のポリシーがはっきり見えて来ます。境目が昭和23年9月9日の3回国体・水泳、渡辺版のNo1が出てからは、これに特化して蒐集されています。チェックはしてないのですが、渡辺は、恐らく限りなく完集です。その後は肉筆にも力を入れて、「ミヤコ」とかの、限定版の上顧客だったのでしょう。
渡辺の3国水泳は、ダイビングカシェが普通ですが、少女の浮き輪カシェも渡辺です。通常切手のNo1の数字1.5円+3.8円の孔版カシェも、はねつきのコロタイプ、44年年賀・とりの「鷹ぽっぽ」も有りました。渡辺以外でも、小型シートがほぼ完集、「制定」は実逓で極美だし、うなぎも完貼、京都は消印違い、犬山は完シートの渡辺、憲法は丸ごとではないのですが、切り抜きで普通シートのそれと混貼の外信・・カシェや日付でも、まだまだ楽しめるものが一杯です。徐々にオークションでご案内していきます。
渡辺版が発行される前は、基本的にカシェ違いというか、白封的なものも含めて、版元違いで何でも集めていました。この膨大な集積物を俯瞰して、初めて見えて来たこともあり、疑問が氷解し、目から鱗が落ちました。昭和23年以前のFDCで、この人がお持ちでないのは、存在しないか、有っても殆どマーケットに出て来ていないものだけなのだと考えて良いでしょう。収集品がFDCの歴史を逆に示してくれるのです。
私はオークションの記事編集の際に、必ず版元を書くのですが、1997年版のFDCカタログ(それ以前の物も当然)をベースにすれば、強烈な違和感が起きるのです。昔は活字の記載を信じていましたが、昨今は自分の感覚を重視しています。それは戦後の記念切手・創始75年~競馬法までの版元の分類です。
FDCカタログの図版の内、司法・2国・社会事業・全国緑化・教育復興・競馬法、それと図版には出ていない鉄道75年S/Sの版元が、「JPS」になっており、評価欄にもすべてJPS版が採録されていることが、マーケットの理屈に合わないのです。落ち着いた木版カシェで、ロゴにはJ・P・S・の文字は有っても、これらは明らかに一連の物で、その版元は切手会でしか有り得ないと思ったのです。これらをJPS=日本郵趣協会版とするならば、切手会版が世の中から、全て消えてしまいます。
JPS版は、憲法(22.5.3)がNo1、民間貿易は凹版の立派な物が有り、小型シートで雑な大阪展とか、ホンの希に見るものを除けば、本格的な出現は、4国冬~になります。今回のコレクションにも正にその通りで、そしてそれ以外は皆無だったのです。
付随するデータで言えば、切手会版のFDCでは、昭和10年前半からの、昭和切手、記念切手、国立公園の桜と文字の簡易カシェ封の流れが、戦後も少し続きました。3次昭和10銭の富士桜は例外ですが、3次昭和50銭、1次新昭和5円、2次新昭和10円横、5円、創始75年4完貼の、鳩と桜と縦書きJPSの文字封筒もJapanPostageStampAssociationと見て不自然ではないし、日本郵趣協会とすると、存在年代やカシェのポリシーで理屈に合わなくなるのです。
切手会の憲法は朝陽会の有名な凹版で、郵趣協会も別にあり、民間貿易の文字はJPSAで木版(郵趣協会は凹版で別のものがある)。この2点が切手会と郵趣協会が共存と確定しているので、司法=JPSA、鉄道S/S=JPS、2回国体=JPS、社会事業=PSJ、全国緑化=PSJ、教育復興=JSP、競馬法=英語無しと、ギャグの如く3文字(4文字)を並べ替えているもの全てが一つのグループで括れて、そしてそれは、切手会なのです。何となくは感じていた事ですが、今回の大コレクションを分析して、この推論が確信に変わりました。でも、憲法、民間貿易を除けば、競馬法までのJPS(郵趣協会)版は少ないと思います。直ぐに頭に浮かんで来ないのです。有るか無いかもそうですし、値段に繋がるかは別ですが、密に蒐集されている人がいれば、大いに尊敬いたします。
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『ルイスと山デブ』
直ぐに出てくる文献ということで、鳴美刊・初日カバーカタログ1997をベースに書いてみます。図版を中心にバカ程、間違いだらけのカタログですが、参考文献としての叩き台に使うのなら許されます。でも、そのデータを信じれば恥をかくし、FDCコレクターは誰も信用してはいませんが。
そこにルイスの一覧表が出ていて、それは概ね合っています。1934.3.1の芦ノ湖91/2銭がルイスのNo1というのは良いのですが、(カシェなし)はNGでしょう。カシェ有りのNo1に訂正して下さい・・・非常に少なく、私も今回、初めてお目にかかりました。ルイスの絵入りFDCを希少性で言うならば、今回のコレクションに入っていなかった、1次昭和の1円が一番かもしれません。他のFDCは、押しなべて、オークションで5~10通は扱っているのですが、これに触れた記憶は有りません。1次昭和50銭と芦ノ湖91/2銭が次いで少なく、今回始めて手にしました。富士箱根は落札値段では、10万を超えていますが、ここ数年で3通扱っていますし、比較的少ない以上に、切手会のそれが無いためのプレミア需要もあるのです。FDCカタログの白封の方がルイスよりも高いというのは、当然ながら誤植でしょう。ルイスの存在数では、国立と1次昭和は銘柄でも存在数にそれ程は差がなく、ちょっと多いのが年賀と愛国、紀元、勅語ぐらいかもしれません。
買いたい値段と売りたいそれのバランスが良くて、手に入れば直ぐに売りに出し、売れ残ることは皆無です。商品としては非常にありがたいのです。今回のコレクションには、驚きの新発見が1点だけ有りました。画像に載せた大山瀬戸内S/Sのそれです。端っこのカシェで別物かなとも思ったのですが、裏のラベルで信憑性も担保されるでしょう。ここ30年位のオークションでの国立公園の出品・落札データを完璧に押さえている、この分野のオーソリティーが近場にいるので、ルイスで小型シートが有るのを知ってる?と聞いたら、右端に小さいカシェが入って、初日でないものが何点かあります、自分で持っているのが阿蘇、もう1点、日光が直近の鳴美のオークションに出ていて、何れも発行後の後使い、カシェは3点で共通・・という即答でした。流石に、2011年のJAPEXでの国立公園の特別展示の前で、一人で勝てる?と聞いたら、余裕で、にっこり笑っていただけに、お持ちのマテリアルにも自信があるのでしょう。そろそろ、作品として表に出して欲しいのですが。最低でも「金」、初出品で「グランプリ」でも驚きはいたしません。あと1点、葉書の使用例が入れば出します、ということなので、それを頑張って探しましょう。因みに、小型シートのルイスのFDCは初見とか。1点有るということは、日光~台湾まで可能性はあると思います。
ルイスと言えば、進行中のお話で、ISJPの誰かが熱心にカシェ違いのデータを取っているらしいのです。去年ぐらいに、突然メールが来て、終わったオークションのルイスの画像が欲しい、落札者に連絡して、スキャンして送れ、みたいな話でした。オークション開催中なら、なんとか便宜は図りますが、終わって所有権が移ってからは無理、ISJPの名前で何でも出来るわけでは有りません。今回も必要ならばお早めに連絡して下さい。
ルイスに関しては、日本一を自負していて、10年以上前に郵趣に記事を書いていた彼に、ISJPが何か言ってきてない?と聞いたら、郵趣出版経由で資料を欲しいと言われたとの返事でした。親切な彼のことだから、きっちり協力したのでしょう。カシェ違いで、更にはFDC以外のトンガのティン・キャンや、富士山、南洋、船内印まで私の評価の20倍ぐらいでベーカーおばさんのフロアで手を挙げているのを思い出しました。持ってないものは幾らででも買います、だけど、もう欲しい物が出ないんです・・。その彼は、もういない・・・。
せめてISJPがモノグラフを出版する時には、協力者=YAMAMOTOTOMONAGAとして最大級の敬意を表して欲しいのです。
今度の日曜日が弊社の東京の下見会、毎回必ず、9時半に目白駅から学習院を左に見て坂を下れば、リュックを背負ったデブが、にこにこ笑って手を振って待っていてくれて、一緒に荷物を運んで、セッティングの手伝いをしてくれていたのです。よりによって、今頃ちょっと自慢できるルイスが出てくるとは、更に淋しくなるのです。
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『創始75年FDC』
戦後直ぐ、昭和20年代前半のFDCには世間的に未解明というか、体系立てでは研究されていない部分が数多くあるのです。戦後最初の記念切手のこの創始75年は、4種貼った解説書に特印押しは、ゴミの如く残ってますが、使える状態のFDCはかなり少ないのです。普通に見られるのは縦型の白封筒に4種貼、特印東京21.12.12、不鮮明でシミが出ているものが多いのです。FDCカタログの情報では、白封以外にはSPAN=学生郵便切手会=①、志ん万=旅の趣味会・蒐集時代社=②、のみの掲載です。J・P・S=③は日本郵趣協会のそれではないのですが、これは項を改めて書きます。
面白いのが白封の④・⑤、どこかで見覚えがあるでしょう。昨年のJAPEXの戦後記念の特別オークションセールで出品された、創始75年S/Sの使用済が、ドンピシャなのです。あの品物は色んな本に出ているし、数年前のJAPEXの特別展示にも出ていました。所有者は超高名なコレクター、謳い文句は、「唯一の初版の使用済」、でも、展示で見た人は誰もが・・私も自称小型シートの専門家と、自称記念切手の専門家と並んで見ましたが、異口同音に、「初版じゃね~よな、色がダメだよな」で一致、だから人を介してお持ちの方にそれとなく伝えたものの、「大丈夫ですよ」の返事だったとか。
もう一つのポイントが、欧文印のTOKIO・NIPPONが本物か否かという点、これは真っ二つに分かれました。悪い派は、見たことが無い異形な印影、色黒々で鮮やか過ぎるという点、良い派は、印圧が有る、記念切手の初日・しかも戦後最初のエポックメーキングな出来事への特注品ということ。この印が、正にこの日しかないのか、別の日にも使われているのかは未解明ですが、④・⑤のFDCには嫌らしさは有りません。間違いなく真正の消印でしょう。
オークションでの記載は、小型シートが再版という表現は使われてはいないものの、少なくとも、初版としては売られていません。唯一かどうかは知りませんが、この小型シートに欧文印が押された物は希少なのでしょう。随分立派な値段で落ちていました。私が画像の物=⑤を売るとして、剥がして3種連刷のカットにする方が高いと思うのですが、流石にそれは出来ません。FDCとして、その内に出品いたしましょう。
異形の消印が、切手の初日に使われたケースがあると考えた場合、幾つか同様の例があるのです。明治銀婚・日清戦勝のFDCの丸一印、印色は鳶色でなく漆黒、字体も材質もちょっと違う、局は大局、今回のFDCの大家とは全くの別ルートから来た物で、二級品を使った、戦前偽FDCとは繋がらない、それ以外の戦後の物でもちょっと違うな、FDCだからかな、みたいなカバーを複数点温めています。こちらはもう少し精査してから、時が来ればお見せ出来るでしょう。立派な鑑定書付の物もありますから。
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『FDC アラカルト』
突然、梅田の税理士法人さんから電話を貰いました。弊社のお客さんのお医者さんが亡くなって、相続の手続きを手伝って欲しいとのこと。アレンジして下見、ダンボール15個のアルバムを引き取ってきました。知る人ぞ知る、FDCの大家で、20年以上前にルイスの30通のロットとかをプライベートの取引で買ってもらっていた人でした。菊・田沢・風景・富士鹿あたりで、FDC型録に出ている物の大多数はこの人の物でしょう。収集対象は、戦前は持ってなければ全部買う、戦後は渡辺版に特化、文化部は皆無、JPS・NCC、松屋も数えるほどしか有りません。肉筆がお好きなようで、MCC=藤井は限定番号1番、研究会、FKK、郵趣東京、瀬戸口もそれなりに有りました。平成15年ぐらいまでだと思いますが、ボストークで100冊は有るのです。お遊びでの収集でしょうが、葉書の未使用コレクションが有って、脇付1銭、関東庁濁点楠公往復、支那字分銅往復左書まで入っていました。スポルディングの分銅葉書の軍事郵便5号加刷(鑑定付)を含めれば、組合の未使用は完集になってしまいました。当分温めておきましょう。琉球も中々よさげです。残念ながら未使用なのですが。
20年前のFDC型録では綺麗に写っているものでも、ちょっとシミが出掛かっていたり、ご近所のお友達が、戦前記念の偽FDCの流通に責がある人だったりとか、嫌なことはご存じないまま今年の6月に亡くなられていました。もしかすれば日本一のFDCのコレクターかもしれません。私がコレクションを拝見したのは今回が最初でしたが、想像を遥に超えていました。
台湾行啓と飛行試行は残念ながら手に入らなかったのですが、発表されている物のうちでは、朝鮮字菊20銭と大白多数貼を除けば、通常はパーフェクト、ルイスも1次昭和1円以外は有ったと思います。制定シートと支那字入婚儀は極美の状態です。
売り方はじっくり考えますが、体系だったコレクションを眺めていると、絵になって見えてくる情報があるのです。ここらを何回かで書いてみたいと思います。
昨年のJAPEXで売られた戦後記念のコレクションの、創始75年小型シートの使用済のステータス、元の姿が見つかりました。異形のTOKIOの欧文印の素性も知れるかも。
多分新発見でしょう、大山瀬戸内小型シートのルイスの実逓カバー、「山デブ」に見せて自慢したかったのですが・・。
戦後直ぐの記念切手の版元、切手会とJPS、現物を並べてみれば綺麗にアナライズできて、JPS=日本郵趣協会(常に)でないとわかります。
JAPEXから戻ってきて、落ち着いてから遊びます。