月別アーカイブ: 8月 2009

2009年8月8日(土)

『韓国と台湾と』 

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去年から今年にかけてのオークションシーンでの話題の一つは、釜山(鎮海)の李昌性さん。著名な収集家宛のカバーがトラック一杯、ソウルの切手商の手元に来たのです。マジで丸ごと弊社へ出品という話も有ったのですが、戯れに出品したE-Bayが燃え上がり、後はご存知の通りです。でも、E-bay経由とソウルと東京で動いた物を含めて、10人以上から弊社に出品物が来ています。もし弊社にストレートに来ていれば、表に出すのは100分の1、後は剥がすか煮潰してしまったでしょう。その方が平和だったかも。AOPUの重量便とか、私製エログラムなど、収集家でないと使わない使用例が雑多な売り方がされているのが残念でなりません。
この口は私とすれば過去の事、今更どうにもなりません。ただ、別口の台湾からの山の方が現在進行形だし、まだまだ続くので将来的に面白みが有るのです。ここ数回、現地のディーラーから、素晴らしいマテリアルが届いてます。台湾楠公使用済や第十三軍事は、流石に次は来ないでしょうが、台湾速達や、航空便、旧植民地宛の例外料金、第一地帯宛の航空便というテーマでは、早い者勝ちでなく、選んで買えるよ、の状態になって来るかも知れません。現状では、1回のセールにEMSがひとつ来る程度ですが、中身は中々に魅力的なのです。台湾ヤケは、やむを得ないと我慢してもらうしかありません。
相手はプロだし、JAPEXにも毎年来ていますから、それなりに日本物の知識も持ってます。ただ、オークションの出品物としての際どい値付けは、彼の場合は無理なのです。完全なリストなしの最低値一任なら、こちらのアレンジで綺麗な並びに出来るのですが、全部記事と値段付、必要なら訂正は差し支えなしというスタンスです。状態で不十分な物とかは遠慮なく直しますが、物が見たままのものならば、最低値の修正は殆どのケースではやりません。オークションだから、最終的にはビッドする人が決めてくれる。オークショニアはその為の必要な情報を提供すれば良いというのが私の基本的な考えですから。
Lot2527 台湾速達郵便区市外30キロ超4キロ加算25銭
最低値22万は出品者の記載です。直感では他の物とのバランスでは大分高いと思うのですが、この実例は記憶に無いし、現地のプロの評価を認めて罰は当たらないでしょう。判っている人しか買えない値段ですし。
Lot2543 日本平24円、きじ16円貼航空便台湾宛
最低値1000円、日本平が表へゲ、消印が和文、全体に薄汚れ・・でも希少性と人気を加味すれば、10万円でも黙って載せたと思います。最低値を上げても怒られないけれど、出品者の記事と値段のままで書いて、オークショニアのメッセージは、チョイスして裏表紙に載せているということで十分に理解してくれると思うのですが。最低値にも色んなケースが有るのですがその解説は個別にはいたしません。

2009年8月7日(金)

『完全木綿紙の確認法』 

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「三山紙」の方は、ウッドワードの分類のみが唯一の基準なので、今となっては緑1銭のKG備中三山の消印を持つ物以外は推測以上の説得力がないのかも知れません。それを承知でコレクター自身が基準を定めて分類すれば良いのでしょう。オークションの記事の表現は、弊社では100%私の基準で責任を持ってやっています。出品者の分類記事を盲目的に書き写すことはやりません。例えば、ここ数回ハイグレードの出品が続いているU小判のマテリアルには、これでもかと言うほどの珍品が続いてます。藁紙や白紙のコンパウンド目打は出たとこ勝負で、買ったもの勝ちなのです。今ほどの入手機会は今後も無いかもしれません。今回のセールでも、「完全木綿紙」の表現をしたものがかなり有るのですが、これも今だからという特殊な状況でも有るのです。そして、この表現は私の場合は、旧小判茶1銭・緑4銭の木綿粗紙と同一の紙質に限って使ってます。かなりのハードルの高さです。木綿という表現で、対極に位置する藁混木綿は、むしろ否定的に書いてます。分類上は木綿紙だけれど、典型的な粗紙でない場合は「完全」の文字は使いません。この区別は下見で比較してくれれば簡単に判るはずです。
オフカバーなら、肉眼で容易に区別が出来るのですが、カバーの場合はどうでしょうか。今回の場合、出品者がその表現をしてきて、やり取りの末、全てこちらに任せるのでヨキニハカラエ、になったのです。この条件なら、客観的に証明できる手段が有るのです。水につけて剥がしてしまえば誰でも判る、ただその手段は一般的には取れません。ましてやオークションへの出品物なら、手を加えることはご法度です。ただ、出品者の了承が有れば、それに近い状況は作れるのです。
LINDNERの郵趣品にStampRemover という溶液が有って、カバーの状態で、貼られた切手に刷毛で液を塗れば数十秒で糊を残したままで、液を塗った部分だけ封から浮かして紙質を裏から見ることが出来るのです。一部を封にくっつけて・・というのは単に拘り以上の意味も無く、完全に剥がすことも勿論出来ます。ただ、一度剥がして、元の通りに貼りなおすというのは、昔から結構抵抗があるのです。完全に剥がすか否かは些事ですが、その行為をやったことによって正しい分類が出来ても、品物に悪しき影響が残っては駄目なのです。大昔は竜の無地・縞が重要だったこともあり、かなりのケースで水で剥がして調べたことも有ったと聞いています。でも、今はその分類は無意味だし、竜銭の紙は表でわかるので剥がすことは有りません。だから、剥がすか浮かして紙質を見るのは、旧小判10銭の薄紙、U小判の木綿紙、産業か透かしなしかの区別が困難なケースに限られます。旧小判でも3銭。4銭は表で容易に判りますから液を使うことは有りません。
20年ほど前に買った溶液を今も使っているのですが、実際問題では、年に数回自分のカバーを調べるだけなので、殆ど減らずに残ってますし、全く劣化もしてません。揮発性ではないので、塗って浮かす時点で液が多少ははみ出すのですが、和紙の封筒は全く問題は無く、洋封筒でも普通の用紙ならば乾けば痕跡は残りません。ただ、最近の表面につるつる加工を施した絵葉書の場合は、引きつりあとが残るかもしれません。
郵趣目的に用品メーカーが作ったので、「ハガロン」とは比較にならない位に有用に使えてます。オークションへの出品物に関しては、出品者の依頼を受けての作業に限ってますし、表面目視でかなりの確度も保てるのですが、切手展の作品に使う場合はより厳格な調査が必要になるし、10銭薄紙カバーを鑑定に依頼した際には半分浮かして見やすくして出したのです。そのリクエストをされましたから。
手元にある20年前のLINDNERの画像を出しておきましょう。同じような目的で、STUARTとUHUも作っているし値段は非常に安いのですが、私が実際に使っているのがLINDNERStamp Remover8060(最新の型番)です。125mlで定価は8ポンド、ご希望ならば送料共で2000円で取り次ぎます。ご希望の方がおられればこれから発注して取り寄せます。まずはメールでお問合せ下さい。実際に使う場合は、何に使うかはひとえに自己責任なので、安い物で試してから理解した上でやってもらうしかないのです。

2009年8月6日(木)

『何これ?』 

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先日ブログに書いた、旧小判5厘エスパルトの使用済=Lot1211は、幾つかの情報が来ました。沢さんの小判切手の初期使用の欄に、明治12年紫◎YOKOHAMAの記載が有ります。今回の物は1879年FEBだし、色は黒だけれど、他にも黒の実例もあるので印象的にはかなりポジティブで良いと思います。だから表紙に使ってます。このブログをきっかけに、出品者からも連絡を貰いました。昭和48年~50年の間に、東京の切手商から通信販売で買った、単なる使用済だということです。当時に然るべき専門家に消印を見てもらって、その際にも、見た人がいい反応だったとのコメントを貰ってます。もう少し掛かり方が良ければかなりの物なのですが、次回の出現を期待しましょうか。
Lot1287 1次昭和4銭3枚貼速達樺太宛
第1種4銭+速達8銭で当然料金は合ってます。ただ表で見える以上のプラスの情報がないのです。着印無しは止むを得ないにしろ、やはり飛び込みづらくなるかも知れません。確かこの現物はヤフーに出ていたものでしょうか。その時から何人かから同じ意見を貰いました。樺太の速達制度を整理すれば、山下精一さんの本に、昭和14年6月16日から取り扱いが開始されたという記載があります。ただ、内地からでも出せたのか、区域は全域なのかなど詳しいことは判らないし、実例も見つかってないのでは。昭和18年4月1日の内地編入の後は、「速達で内地は何処へでも」に含まれるので制度としては同一料金で存在したと思われます。今回のマテリアルは、料金相応の特殊扱いが為されたかは誰も判りません。ただ、否定できるデータもないので十分に使えるものだと思うのですが。
Lot2120 無切手葉書 N3B3東京19.6.5
図に示した左側の説明は、元の所有者?=漆畑さんのメモです。形態は小判1銭紙幣寮葉書と同じ感じの用紙、消印は問題は有りません。ただ、印面や表題などの有るべき印刷が消えてます。全体に疲れもあり、青色の印刷を薬品で消去したかもと思いましたが、果たしてそれが可能か否か判りません。ただ、漆畑説の「公然と許された無税葉書・・」というのも私の知識の中にはないのです。ご存知なら、オークション終了後にでも教えて戴きたいのですが。
Lot3356 竜1銭2-14 未使用 強靭紙
1枚の切手の説明とすれば、この書き方以外はないでしょう。ポイントは勿論紙質であって、もしこの表現が正しければ、公の場に売りに出た初めての1銭強靭紙の未使用ということになるのです。はっきり言えるのは、最もありふれた脆弱紙ではなく、また半透明無地のぺルアー紙でも有りません。ただ、所謂典型的な「強靭紙」=2銭と5銭使用済の分厚い毛羽立った黄色い紙とも異なります。必要十分な繊維質はあるので、敢て三椏・・と書きましたが、薄手で格子縞が見えるのです。識者のお話では、1銭2版と半銭2版に全く同じ印象の未使用があるそうです。竜銭の紙は言葉の表現手法としては、脆弱無地・脆弱縞・ぺルアー・強靭紙(無地・縞)で収まっているのですが、実例としてはちょっと微妙なものが有るのです。今回の出品物、議論の材料になれば幸いです。本来なら、このステータスなら表紙に載せても良いのですが、目打=12×11の横目打が気になって・・竜の12というよりはマージンの狭さも相まって、リパーフかなと見えるのです。それ加味した扱いをしています。
Lot3238U小判2銭 三山紙 使用済
言葉としては、誰もがご存知の、かのウッドワードが名付親のU小判=本来は1銭の薄手白紙漉き目が明瞭な縦紙です。1銭に有れば、当然2銭にも有っていいのですが、「三山紙」と銘打って売られた記録も殆どないかも知れません。オボロゲ記憶としては、1銭のKG備中三山を一度だけ扱ったかも知れませんが今や確認も出来ません。1銭・2銭の薄い白紙なら、それなりには有るのですが、「三山紙」と記事に書くには相当蛮勇を奮わねばなりません。今回のこの記載は、出品者が恐らくは日本で最も数の多い赤二を持っていた?という彼の自意識を評価しての記事なのです。ビッドにエクステンションで他人の評価に委ねるのは野暮なので、現物を確認して、納得の上で競ってもらいたいのです。オークショニアはこの程度までしか面倒は見ませんから。

2009年8月5日(水)

『知的好奇心』 

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8月号の原稿は既に校了、11日に納品になり12日に発送します。Webで情報をご覧の方には5日から下見可能です。それに先立ち、オークション誌には書き切れない情報をチョッと書いておきましょう。まずは、知的好奇心が刺激される、ひねった情報からです。
Lot 1924 大型小包送票(乙)
根拠となる告示を探せませんでしたが、明治31年の時点では、大型の乙は、受取人に一定の期日内に配達できなかった小包の事後の取り扱いに限って使われた物なのでしょう。中央部に「転送・還付」の2要因が書かれ、扱いを問うてます。当然ながら初めてお目にかかりました。想像だに出来なかった珍しいマテリアルです。
Lot1412 着印 季節局 信濃御嶽山
田中寛さんの「丸一印の分類と楽しみ方」P57に載ってます。山岳季節局=富士・御嶽・浅間の三局に共通ですが、その業務は「普通郵便及普通小包郵便物ノ引受並二交付二限リ・・・」と有るのです。実例も、圧倒的に葉書の「引受」に限られ、封書はかなり少ないでしょう。それ以上に可能性として、有り得るけれど少ないのが、「交付」です。留置で出頭を待って手渡すサービスということです。今回の物が正にそれ、御嶽郵便局止めできっちりその役目を果たしたのでしょう。
Lot2126 鳩郵便 新宿三越展
鳩郵便で有名な物は、白木屋の満蒙展、これはかなりの数を見かけます。それ以外にも、毎日や読売が企画した同様な物も時々見た記憶が有るのです。でも、今回の鳩便には見覚えがありませんでした。消印が不鮮明、かろうじて読めたのは一文字で「浮」、裏の書き込みは大島にて・・。だから、この消印は「東京波浮湊」伊豆大島から伝書鳩が新宿三越に手紙を運んでくる。なかなかの良い光景だと思うのですが。
Lot1861 ゼロ付立山125円絵葉書航空便ドイツ宛 TOKYO19.ⅵ.52
ゼロ付立山の消印収集ポイントの一つは、ゼロ無発行前が必須、これは誰でも知ってます。発行日はゼロ付が1952.2.11、ゼロ無が1952.7.1、この条件で欧文印を探せば、必然的に櫛型がスタンダードになるのです。ところが、1952.4.10に重要な告示が出ています。交換局6局に限定ですが、この日で櫛型から三日月に切り替わっているのです。切り替え遅れも有るし、大局であっても、2ヶ月と3週間の期間での欧文三日月消は理屈の上からも高いステータスを与えても良いでしょう。立山航空の場合、欧文櫛でよく見かけるのは、商社や企業関係の差出郵便物が非常に多い東京と大阪の市内局の数局です。
OSAKAHIGASHI,KITAHAMA,NIHONNBASHI,SHIBAですが、この4局は三日月への切り替えが遅れてます。その意味でも、1952.4.10~6.30のゼロ付立山・三日月は非常に難易度が高いのです。今回のマテリアルは、ヨーロッパ宛でしかも葉書=封書と同一料金というおまけ付、何だ、TOKYOかと見過ごして良いものではないのです。反応できる人が2人以上いるなら、オークションはにぎやかになるでしょう。